2018年04月19日

パラダイム・シフト

 ある日の、あるチームのトレーニング光景。
 ピッチの周囲のジョギングから始まる。その間に、コーチはマーカーやコーンをセットする。ジョギングの後は体操、ストレッチ。コーンやマーカーを置いてステップ・ワーク。ここからボールを使ったトレーニングに入る。二人一組でのパス交換が終わると、グループでのパス&コントロールの練習。続いてシュートのパターン練習。ゴール・キーパーはいないことが多い。ここまででほぼ1時間経過している。後半は、ポゼッション・トレーニングとゲーム。最後に補強トレーニングが入ることもある。伝統的に、私たちのトレーニングはこのような構成だったように思う。私を含めて日本全国で、プレーヤーを経験してコーチになった者は、このように刷り込まれてきた。
 今、私はサッカーのトレーニング(特に育成年代の)について、私自身の“パラダイム・シフト”が必要ではないかと強く感じている。私たちが刷り込まれてきた“要素分解・要素組立”方式から、サッカーの本質を再現しながらトレーニングをおこなう“要素複合”方式への転換である。そのためには、トレーニングの考え方の基盤になっている“パラダイム”を新たに書き換えなければいけない。“パラダイム”の転換なしに、トレーニング・メニューだけを工夫しても、なんとなくよく似たものにしかならない。
 最近言われている“M-T-M”方式を取り入れても、例えば、試合で中盤の組み立てのパスをよくカットされて、カウンター攻撃を受けてしまう。トレーニングで次の試合までに改善したい。どうするか。パスが不正確だ⇒二人一組のインサイド・パスをもっと正確にできるように練習しよう。パスを受ける位置が悪い⇒ハンド・パスでサポートの位置を確認しよう。周囲の状況がつかめていない⇒パスを受ける前に周囲を見て、パス&コントロールの練習をしよう。4対2のポゼッションをしよう。OK。練習でできるようになったことを試合で生かそう。これが“要素分解・要素組立”方式である。しかし、トレーニングの成果が試合になかなか現れない。なぜなら、試合はトレーニング要素の足し算では構成されていないからだ。なぜ、私たちのトレーニングは、長い間このようであったのか。私には、野球のトレーニング方式が知らず知らず肌感覚として日本人に染みこんでしまっているのではないかと思われてならない。
 例え話だが、太陽は東の空に上がって、西の海に沈んでいく。あるいは春夏秋冬、季節が巡る。日本人が見てもスペイン人が見てもそうだ。しかし、この現象を天動説で説明するのと、地動説で説明するのでは全く違ってくる。私たちは、試合での現象を見て、改善方法を考える時、いわば天動説から地動説への転換をしなくてはいけないのではないか。
 サッカーの一流国に学ぶことは大切である。かつてはブラジルの個人技、ドイツの組織サッカー、最近ではスペインのトレーニング・メニュー。情報はあふれている。しかし、それを学ぶ私たちのパラダイムは以前のままだ。“パラダイム”の転換なしに、トレーニング・メニューを変更しても、なんとなくよく似たものにしかならない。チームを画期的にレベル・アップさせたいのなら、“要素分解・要素組立”というパラダイムから、サッカーの本質を再現しながらトレーニングをおこなう“要素複合”のパラダイムへの転換を急ごう。このことは、いずれ日本でも起こる。他に先駆けて取り入れることが他のチームとの違いを生み出す。
 トレーニング・メニューに“サッカーの本質”を常に取り入れよう。サッカーの本質とは、目指すゴールがある、そのためにボールを奪い合う相手がいる、サポートしあう味方がいる、攻守の切り替えがある、シーンが常に変化しつつ連続する、プレーヤーに瞬時の判断が要求される、このようなことである。そのトレーニング・メニューには、これらの要素が組み込まれているか。要素還元トレーニングに試合のリアリティーがあるかどうかを考えるのは、“天動説”である。サッカーの本質が要求されているトレーニング・メニューの中で、要素の指導を行うのである。
 プレーヤーは“やらされ感”を持っていないか。それを力で抑え込み、トレーニングに耐えることを強いるトレーニングでプレーヤーの資質は本当に引き出せるのか。トレーニングで一番大切なのは“ゾーン”に入っているかどうかだ。“ゾーン”に入ったら、どうなるか。心は熱く、頭は冷静に、課題に進んで取り組み、集中力を維持して全力でトレーニングに取り組んでいる。そうなっているかどうかは、プレーヤーの動きや目の輝きを見ればわかるはずだ。コーチはそれをサポートするためのコーチングを行い、それを途切れさせないように気を配る。
 バレンシアCFオフィシャルアカデミー和歌山校では、サッカーのトレーニングについての自分のパラダイムを転換し、サッカーの本質を常に意識したトレーニングで、プレーヤーを“ゾーン”へ誘い込むことで、プレーヤーの資質を最大限引き出していくことに、私はチャレンジしていきたいと強く考えている。


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